S ハウス | 2022.09

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敷地概要
所在地: 碧南市、愛知
敷地面積:1,108.71 m2

建物概要
建物用途: Pivate Residence
構造・規模: S造
延べ床面積:398.47 m2

掲載誌
2024	GA JAPAN 194
2024	Jutaku Tokushu 2024:464

2020年の春、敷地を訪ねた。これから始まる感染症の流布を予感しながらも穏やかな春の始まりを感じつつ雑木林
のような柔らかい緑の庭の雰囲気に癒された。時折姿を見せる母屋に集まる野良猫の顔をみて、居心地の良い環境が
ここにあることを知らされた。そこにあった屋敷に建築主が生活したことはなく、主が成人したのちにご両親が建て
られた新しい建物だった。奥には茶室もあり美しいたたずまいをそこに醸している。既存の建物を壊して、その場所に
ご夫妻と若い大型犬と数匹の老猫が暮らす。数台収容する車庫も欲しい。ご要望を伺いいくつも案を考えるがこれだと
いう考えが出てこない。味深い甍を抱える母屋と雰囲気のある茶室が控える連なりを壊すことがとても惜しく感じられた。
雑木林の庭に落ちる春の柔らかい日差しも心地よい。柔らかな光が広がる緑に面して敷地の南端に沿って弓なりの家を
創ることを考えた。形を創ることではなく、土地が持つ特性を生かし、生活のFlowをトレースしたらこのようになった。
エスキースを重ねながら案が浮ぶが何かに導かれるように一気にフリーハンドながらプランが出来上がった。環境に
対してとてもやさしくできたと感じたし、主はもちろんのこと誰もが快く納得しうるプランであると感じる。

北に庭や既存の母屋や茶室を包む弓なりの家ができる。母屋は鉄骨にて頑丈に補強をし、内部壁を撤去、車庫として
活用する。新しい住まいはここに暮らす人、動物のFlowがそのまま領域と化したようなエッジであり、鉄骨とALC、
断熱材でできたコスパの高い皮膜により包まれる。北面はすべて開放される。風の流れや庭の土の組成を乱さないように
高床式とし、入り口から穏やかにスロープが人と動物を誘う。床、屋根は外断熱とし、空調された室内の空気が床下や
壁内を通じて循環するようファンとスパイラルダクトで構成される装置を創る。おだやかな空気の循環が出来上がる工夫
もしている。サッシは金物工事にて複層ガラスをFIXする。形を創ることではなく、知覚としては庭のエッジを構成する
Flowする領域が生活するスペースとなっている。大きな愛犬はスロープと母屋の軒下を楕円を描いて走り回り、猫は
暖炉のそばで丸くなる。空間は庭の緑と一体化し、その先に母屋や茶室を眺める。何事も循環する流れの中に多様が
生まれる。そんな弓なりの環境がそこにある。