Hexagon / アロン化成ものづくりセンター | 2011.11
敷地概要 所在地: 愛知県東海市 敷地面積: 22,253m2 建物概要 建物用途: 工場、事務所 構造・規模: S造 延べ床面積: 7,040m2 掲載誌 2011 日経アーキテクチャア 12-10 2013 Futur Arc 07-08 2013 T's Style 10-06 2014 日本建築学会作品選集 賞 2016 IDA the 9th Annual International Design Awards 2016 Honorable Mention in Institutional 2016 JIA(日本建築家協会)環境建築 最優秀賞 2015 Winner FuturArc Green Leadership Award. Institutional Category List of Winners 2015 2013 第45回 中部建築賞 一般部門 入選 2012 第20回 愛知まちなみ建築賞 最優秀賞 2012 World Architecture Festival Worlds Best Production Energy Recycling部門 Highly Recommended Webpage Archdaily designboom FuturArc e-architect Architizer idesignawards
ものづくりセンターは知的創造が行われる場として設計されました。そこに集う人々が融合し、刺激しあい、 新しい考えと価値観、製品を創造していくには如何なる環境が望まれるか?また、時代を見据え、これからの 社会ひいては地球環境に貢献するには如何なる施設が相応しいか?そして何よりそこに集う人々が家族にあるいは 社会に対して誇れる職場とは如何なるものか? 全ての設計コンセプトはこの三つのテーマに沿って組み立てられました。しかし、建築の設計とは最初から予定 調和を求めて進められてしまうことも多々とあります。そうではなく、創造の場を作り出すには予見ではなく 発見を重視し、一度固まった考えももう一度疑い練り直す。そうした試考を繰り返しながら空間を包むオーダー (秩序)あるいはシステムを設定することを第一に考えました。そのオーダーのもと、求められる環境が自発的に 生成されていく。そんな設計の仕方を志しています。演繹的というより弁証法的に空間を作っていく。発見を 導き出す場とはそういったところであると考えます。 ものづくりセンターは今までとは違う日常を過ごし、考え、企業がスパイラルアップするために創られた ファシリティーです。故に、慣れ親しんだ物事との決別でもあります。会議とは守られた個室の中で行われるのが 今までの慣習かもしれません。しかし、議論をし、思考を巡らし、創造するには人に見られているという意識も 重要だと考えます。受験生が自分の勉強部屋ではなくわざわざ図書館へ行って勉強をする。何故か?その方が逆に 集中できるからです。自分をプレゼンテーションするということは集中することです。環境を利用して集中して いると言えるでしょう。しかし、人間、切羽詰って何が何でもやり遂げるしかしょうがないというときには環境に 左右されることなく、ものすごい思考の潜航を図ります。締切前の徹夜とかです。しかし、そのような状況は毎日 訪れるものではありません。ですから、普段の生活の中では、環境というものはとても大切です。言わば、ある 程度のストレスをあえて作り出すということですが、そのような状況がいきなり訪れると、人は戸惑い、今までの 環境の方が良かったと感じるかもしれません。しかし、ものづくりとは変化です。今までになかったものを 創りだすのですから。 ものづくりセンターでは人々も融合します。先述の図書館ではありませんがいろいろな人々が同じ大きな空間の 中で過ごし、考えます。そのとき、守っていたものもいったんは手放し、同じ空間の中で共有することになる かもしれません。当然、そこに摩擦やストレスが発生しますが、それは刺激なのですから、新しいアイデアを 作り出すにはとても大切なことです。そもそも、ブレインストーミングという言葉を直訳してみてください。 脳の嵐ですから、これは穏やかな平凡な日々の中にはやってきません。脳内を掻き乱すぐらいのストレスと刺激が ない限り、本来この施設が作られた目的を達成することはできません。ただ居心地が良く快適平穏で、ストレスが ない施設には設計されていません。刺激と融合があり、ストレスもある。しかし同時に緊張から弛緩できる場所も ある。そういう施設に設計されています。場所々々にシーンがあります。しかし、それらは作られたシーンではなく、 結果として表出した変化です。毎日新しい発見とワクワク感がないといけません。時にそれは感情的な高ぶりとなる かもしれませんが、生活の中である程度の波長の様な感性の満ち引きがないと想像力は維持されません。次の ビジョンを持つということがとても大切です。ルーティーンではものづくりはできません。 オーダーは必要です。変化が重要とはいっても、どこに行くか果てのわからない底なし沼の様な変化は人に恐怖を 与えます。目新しい景色や地形を求めて人々は旅をしますが、これも同じ日本の中、あるいは地球の上という 絶対的な秩序のもとでの名勝であるからその変わった見たことのない景観を楽しむことができるのです。これが、 誰も知らない洞窟の中や宇宙の果てとなると、命をかけての探検となり、恐怖がつきまといます。これでは新しい ものの創造などと言っているどころではありません。日々を包み込む秩序を認識した上での変化であるから程よい 刺激となるのです。活性要素です。ですから、オーダーは必要です。変化と言ってもカオスのような無秩序な状態が 良いことは決してありません。日常の中での変化があって初めて、職場は活性化し、結果としてロングスパンでの ものづくりが継続します。人事異動もある程度必要ですし、席替えだって必要です。でも、会社というオーダーは しっかりしていないといけません。空間にも同じことが言えます。ものづくりセンターが活性化するには秩序の 下で変化が継続することが重要です。 第一のオーダー(構築のシステム) 必要に応じて空間が自己増殖していく。そんな状態をイメージしました。創造的な活動を行う環境には自由に変化 する余地の様なものが要求されます。普通に考えるとどこまでも続く広く均質なユニバーサルな空間が理想的かと 思われます。当初はそのような空間を実現すべくシステムをどうするか考えていましたが、何にでも対応できる ファシリティーとは最終的には見本市会場の様な空間になっていくことに気づきます。しかしながら、この大空間 を維持していくには実にコストとエネルギーがかかり、そしてそこに目的施設を配置するにはもう一段の手間と エネルギーがかかります。 自由にエリア設定ができ、必要に応じて増殖もできる、雲の様な構造体を作ることを 考えました。空間が拡がっていっても更なる耐震要素も換気システムも採光システムも必要ない。システム自身で すべてが成立する構造システム。これを作ることを目指しました。自らの巨体に耐えることが難しい恐竜ではなく、 細胞の集まりのように、如何なる器官にでも変化していけるマクロではなくミクロのシステムを構築することと しました。六角形のタワーとそこに張り巡らせた梁による構造を考えます。2軸から3軸に平面的なベクトルを 増やし、構成しうる空間の形状を飛躍的に増大させます。 一般的に建築を作るには垂直力を負担する柱と地震力に対抗する壁が必要になります。壁を無くすためには柱と 梁の接合部が動かないように剛な接合とすれば良いのですが、このとき、柱も水平地震力に抵抗することとなり 径が太くなります。ものづくりセンターの六角形のタワーは6本の細い柱が組まれた一つの完結した柱となるよう 設計されています。それぞれのタワーごとに地震に抵抗し、壁など耐震要素を他に配置することなく水平方向へ 無限に拡がる空間構成を可能とします。タワー内部には六角形のヴォイドが残りますが、ここは機能的に活用する ことを意図しています。タワーを四角形でなく六角形とすることにより、XYの2軸からαβγの3軸に水平力を 均等に分散することが可能となりそれぞれの部材は効率よく配置されることとなります。水平面のベクトルを 2軸に分解するか3軸に分解するかを考えて頂くと良いかと思います。一番強い平面系は無限大に多角化した 円です。無限に拡がり、あらゆる機能に対応しうる構築のオーダーを模索しました。 ・六角形のタワーを1辺18mの正三角形の各頂点に配置することを繰り返し空間は増殖します。タワー間には 三角形に閉じた梁が架かり、緊密に接続されたネットワークが構成され、強度と粘りを合わせもった均質で透明 な空間が形成されていきます。 ・18mスパンは一般的な大規模オフィスの奥行と工場のラインの巾を検証し決定しました。およそ15m。 この数字は今までの組織運営や構造スパンの合理性からもたらされた数字であると推察します。18mの正三角形 の一頂点と底辺の距離はほぼ15.5mです。基本となる長方形平面にも対応し、空間はどこまでも連続します。 ・タワーの標準的な高さは7.2m。吹抜けとすれば工場として、あるいはプレゼンテーションホールや イベントスペース、大会議室、展示空間として使えます。また、床をかければ、天井高3mを超す空間を2層に 亘り構成することも可能です。タワー自身の強度がオーバースペックとならない様、2階を設ける場合はタワー の際に2階床荷重を負担する添え柱を付加しています。 ・タワーは単なる構造体でなく、空間を生かす機能軸としても作用します。動線の中継点としてタワー内部の ヴォイドを考えています。上下を移動する階段であったり、空間に入る前室であったり、スロープや渡り廊下の 踊り場であったり、空間と空間をつなぐ結節点と考えています。如何なるゾーニングにも対応します。 ・タワーは設備的な機能を分担する部分でもあります。空間が連続していったときにも外光と外気に満たされた タワーから採光をもたらすことも換気を得ることも可能となります。どこまでも広がる深度の深い空間を エネルギーの消費を抑えながら実現することが可能となります。建物の奥深い部分でも自然排煙が可能となります。 第二のオーダー(社会ひいては地球環境に貢献するシステム) LCE(ライフサイクルエネルギー)を考慮しものづくりセンターは設計されています。社会ひいては地球環境を考え、 省エネルギーと創エネルギーを実行します。ランニングだけでなくイニシャルにもかかるトータルなエネルギーの 削減と自然エネルギーの活用を目指しています。 タワーの煙突効果 タワーは構造的な要であると同時にものづくりセンターの設備的環境を整えるメインフレームでもあります。 タワーの煙突効果を利用しての建物内部からの排熱を当初強く意識しました。効果を高めるためにはタワーを高く する必要がありますがイニシャルにかかるエネルギーを鑑み、構造的に必要な高さの中での排熱システムを 考えました。内部に位置するタワーには全て緑化が施され、タワーの足元にはクーリングされた環境が保たれる よう設定されています。ここから夏季には涼しい空気が室内に流れ込み、逆に温まった空気がタワーから上空に 押し上げられる熱の循環システムを考えています。 天井裏のセミアクティブソーラーシステム 屋根には軽量の断熱材パネルを採用し、天井面にもグラスウール(断熱材)を敷き詰める構造としています。 屋根パネルを透過した太陽エネルギーは天井の断熱材との間の空気層を温めますが、夏にはこれを排熱する ベンチレーターを各タワーで囲まれた正三角形屋根の重心に設けています。逆に冬季にはベンチレーターを電動 ダンパーで閉じ、エコシルフィーというファンにより天井裏の温まった空気を室内に還元する構造としています。 パッシブソーラーの発展形ですが、冬季の暖房には一部だけ機械的な動力を利用しています。太陽電池パネルも 設置していますので、このファンを動かす電力も施設内でまかなわれる仕組みとなっています。冬場の日射がある ときにファンは運転されるのでこのときは必ず太陽電池パネルも発電をしています。それからベンチレーターには 防水ガラリを設け、暴風雨の時の雨水の侵入を防ぐ仕組みとなっています。ベンチレーター自身六角形の平面を していますが、夏季の風下側の2面にガラリを設定し、誘因効果も期待し、天井裏の排熱を行います。 (東海市の夏季風向きの統計値は南南西ですが、7月のみ北西の風となっています。) グラスウールを敷き詰めたシステム天井 天井はパネル状のグラスウールをグラスクロスで包んだパネルを天井面にはりめぐらされた六角形平面の照明(取付) ラインの間に敷きこまれる構造となっています。照明ラインはトラス上の屋根梁底にダイレクトに固定され、天井の 下地材などの二次部材を排除した設計としています。各タワーより正三角形の重心に向け突き上げられた構造トラス 下弦の勾配がそのまま天井の勾配となり室内に現れ、その頂点にファンの吹き出し口が露出します。印象的なシーンが 構成されますが、意匠を狙ったものでなく、システムの結果として出来上がったものです。 二次部材の削減 工法的な工夫についても触れておきます。建築を作る上で余分となる二次部材を排除することを心がけました。 前述の天井もしかり、屋根パネルもトラス上弦材の上にダイレクトに固定され、勾配を形成しています。 ガラススクリーンも構造部材にダイレクトに押縁を固定し、サッシレスの構造としています。可動窓のみ規格品の アルミサッシを活用しています。実は建築には形や空間を制御するために多くの二次部材が使われていますが、 ものづくりセンターではそれらを可能な限り排除し、オーダーがそのまま形となって現れる構造としています。 構造は構造、設備は設備、意匠は意匠と別々に考えるのではなく、それらを融合しモノコックな構成を考えています。 これにより、建設やメンテナンスにかかる余分な部材やエネルギー、時間を節約しています。 プレファブリケーション 構造システムについても可能な限り工場あるいはサイト(現場)でのプレファブ化を検討しました。各タワーは搬入の 関係から2分割にて工場製作され、サイトに設定された組立場にて一体化します。これをクレーンで吊り上げ所定の 位置にセットしました。サイトプレファブ用の地組櫓を幾つも敷地内に設け、ここで精度を誤差2mm以下に抑えて タワーを組み上げました。一辺18mの正三角形上の小屋組みも地組にて精度を確保し一体化した後、タワー間に 架けられました。足場を設けての高所作業を極力減らし、制度の確保と、エネルギー、工数の削減を図っています。 宙に浮くプランターと雨水再利用灌水システム 宙に浮いたプランターはタワーの内気と外気を高さ方向に仕切る弁となります。外気をどの高さまで導入するか、 タワーを動線として活用するかなどによってプランターのレベルがセットされます。プランターに屋根からの雨水は 集まり、土壌と植栽の蓄熱効果と相まって周辺をクーリングします。集められた雨水は各プランターに設置された ドレインとアロンパイプを経由し地下に設けられた雨水貯留漕へと向かいます。渇水時には雨水を再利用し、 プランター上部に設けられた散水ヘッドより植栽に水が与えられますが、この水は再度土壌により濾過され、 貯留漕に戻ります。人工の雨水循環システムがここに出来上がります。雨水の排水経路には気をつかいました。 計算値より大きめのドレインを各プランターに設置し、土壌の中の排水層から水が流れ込むよう設定しました。 もしも浸透が追いつかなくなったとき、あるいはドレインが詰まった時を考え、オーバーフロー管も各プランターに 設置しています。オーバーフローにもし水が溢れた場合も落下地点でさらに水を集めるというフェールセーフの 考え方を導入しています。しかし、結果として、早くも9月20日、台風15号によるゲリラ的な降雨により オーバーフロー管から水が溢れました。これを踏まえ、プランターに集まった雨水がドレインに直結するルートを アロンパイプにて新設することとしました。時間雨量100mm以上、10分間に30mmという降雨量も想定 しないといけないほど温暖化は進んでいます。タワーにはその面積の30倍ほどのエリアから雨水が集まります。 30mmの降雨量はタワーに集まるとほぼ1mの水深になります。 蓄熱壁と気化熱 溜められた雨水はものづくりセンターの南北外壁に設けられた蓄熱壁にも散水され、気化熱を利用した自然の クーリングシステムとして利用されます。石を積み上げた蓄熱壁を透過した風は工場部分を冷却し、夏季にも エアコンなしで過ごせる環境を作ります。蓄熱量の高い石を積み上げているのですから、晩に冷却された石は 気化熱を利用しなくても輻射により周辺の空気を冷やします。この壁の間を風が流れ、機械的な空調がない工場の 部分を冷却することを考えました。石壁前面の窓は全て引違サッシとしていますので、窓を開けると冷気が工場内に 流れ込みます。工場内で温まった空気は天井裏へと昇り、ベンチレーターから屋外に排出されます。 輻射冷暖房 ものづくりセンター中央には展示やレクチャーのための空間が連続し、空間の高さが7mを超えます。気積全体を 空調対象とすることは無駄が多く、人が居る床に近い部分だけを如何に快適な環境にするかを考えました。 床輻射冷暖房というシステムを新たに開発し、少ないエネルギーでダイレクトに人にエネルギーを伝えます。 正三角形のPC板(プレキャストコンクリート)による二重床を採用し、その下部に空調器からの空気を放出します。 PC板に蓄積されたエネルギー(温冷)が身体に輻射熱として穏やかに届きます。また、各PC板の頂点に配置された アロン目皿からも空気が流れ出し、優しい空調環境を作ります。輻射冷暖房は2階のオフィス部分にも採用されますが、 震災の影響により、部品の納品が一部遅れています。年末まで仮の空調器を一部使用しています。 太陽エネルギーとの関係 夏の太陽エネルギーを室内環境から排除すること、冬は太陽エネルギーを活用し室内にとどめること。断熱を良く すること。これが省エネルギーの原則ですが、ものづくりセンターではもう一歩進めてパッシブからセミアクティブに システムを構築しました。もちろんもっと基本的なところでは庇や複層ガラス、Low-Eガラスの採用を進めています。 中間季には機械に頼ることなく窓を開け、快適に過ごせる様、外付けブラインドも採用しました。 風の道 テラスやコートや開放部の配置を検証し風の通り道にも考慮しました。窓を開放すると爽やかな風がものづくり センターを縦断します。 グリーンコート グリーンコートと名付けたジャングル風の中庭も設け、クーリングを行います。盛夏でも午前中はグリーンコートや タワーの地表面に冷気が漂います。窓を開けこれを内部空間に取り込みます。 照明計画 LED照明も活用し、省エネ性能はもとより寿命の長さとフリーメンテナンスの強みを生かした照明計画を実施します。 吹抜け上部でも高さを気にせずこまめな照明配置を実現し新しい照明のシーンを作ります。高天井の六角形の照明 ラインに設置されたLEDは宇宙を意識する幻想的な情景を醸し出します。オフィス部も高効率型蛍光灯Hfを採用し 照度の確保と省エネを両立しています。 人にやさしいデザイン バリアフリーとユニバーサルデザインという概念を意識し誰もが快適に利用できる社会に開かれた施設としました。 カラーユニバーサルデザインの概念も採用し、人に社会にやさしいファシリティーとしています。 バリアフリーとユニバーサルデザイン 敷地は北から南に向け1.5mを超える上り勾配となっていますが、2万㎡を超える広がりの中、実際には高低差を 視認することができません。大地とバリアフリーなくアクセスする建築を目指していますので必然的に建物内部で 60cm程の高低差に対処することとなります。展示スペースや会議エリアの通路部で勾配床をさりげなく設け、 空間に動きを与えます。また、グリーンコート内に三角螺旋状のスロープを設け一階から2階、屋上へと動線を つなぎます。自ら車椅子で上ることができる勾配1/20にて各階をつなぎます。螺旋状にスパイラルアップする スロープを巡り屋上までアクセスすると、ものづくりセンターの全容をほぼ視認することができます。見えるという ことが機能を伝える最高のユニバーサルデザインであると考えます。もちろん企業の機密を守ることを前提とし、 どこまで見せる即ちプレゼンテーションするかということも考えました。透明ガラスと半透明ガラスの使い分けもこ の点を考慮し行われています。 第三のオーダー(感性に語りかける創造の場) 建築のプラニング、意匠的なオーダーの決定について記述します。 要求された機能容量を積算するとおよそ7000㎡に達します。気積が要求される空間かどうか、オープンな空間か クローズドな空間か。必要な空間を分類し、先述の構造システムのもと配置したところ、およそ80m四方の平面形が 必要なことがわかりました。ゾーニングにて機能をオーダー中に配置し、その結果として80m四方の空間を使い 切ったということになります。北側を来客エントランスとし、中央部に展示やレクチャー、会議を行う吹抜け空間と グリーンコートなど開かれた機能を集約し、これをコの字で取り囲む形で、研究開発とオフィスのエリアを配置 しました。吹き抜けたパブリックな空間は透明化し、外部との連続性のもと、建築の内部というより、むしろ ランドスケープとして認識されデザインされます。吹抜けの中に展示用の体験ハウスや流水実験コート、あるいは ブレインストーミングを促すミーティングルームがハウスインハウスの形でセットされます。視線が透過するそれぞれ のミーティングルーム間では互いの行為を意識した中、より活発なブレインストームが行われます。通路は渓谷と天井は 空となり空間的な広がりを体感します。宙に浮いたプランター、タワーに切り取られた六角形の青空、高低差がある 床面も地形の一部と化し内部と外部の重層感に人々の感性は刺激されます。ここでは空調機械もむき出しですが、 機能がそのまま表れてくることをオーダーと考えています。現れる機能や点景に左右されることのない確実で強い 空間秩序です。多様な建築であり、異なる用途に対してデザインを進めることになりますが、建物の基本となる オーダーがしっかりしているため、意外とディテールの決定に迷いがありません。オーダーに従いおのずと結果が 提示されます。 結果として、ものづくりセンターにはいくつものシーンやシークエンスが構築されることになりますが、最初から そのシーンを狙った訳ではなく、オーダーに包まれた機能の集積として形成されたものです。発見。これが今回の デザインコンセプトです。オーダーを発見すること自体がデザインです。最終的に合理的で美しい形を持った物質が 出現するよう細心の注意を払います。機能的で無駄がないものは美しい。 ものづくりセンターは何よりもものを創造する場です。余分な空間的雑音がなく、それでいて地形のように人々に 感動と刺激を与えるシーンの連続の場であります。環境が建物でなく地形となったときその中で過ごす人々は発想力 を開放させ、考え、実験し、議論を活発に交えることとなるでしょう。建物というフレームはそれ自体が組織の囲い となり限界を定めます。自由な発想を制約することとなるかもしれません。そうではなく、限界がない平原。自分の 居場所、立ち位置を自由に選択できるランドスケープのようなオーダーのもと人々は活性化します。 家族を案内しやすく、誇れる居場所であって欲しいと願います。 設計コンセプト ものづくりセンターは知的創造が行われる場として設計されました。そこに集う人々が融合し、刺激しあい、新しい 考えと価値観、製品を創造していくには如何なる環境が望まれるか?また、時代を見据え、これからの社会ひいては 地球環境に貢献するには如何なる施設が相応しいか?そして何よりそこに集う人々が家族にあるいは社会に対して 誇れる職場とは如何なるものか? 全ての設計コンセプトはこの三つのテーマに沿って組み立てられました。しかし、建築の設計とは最初から予定調和を 求めて進められてしまうことも多々とあります。そうではなく、創造の場を作り出すには予見ではなく発見を重視し、 一度固まった考えももう一度疑い練り直す。そうした試考を繰り返しながら空間を包むオーダー(秩序)あるいは システムを設定することを第一に考えました。そのオーダーのもと、求められる環境が自発的に生成されていく。 ものづくりセンターは今までとは違う日常を過ごし、考え、企業がスパイラルアップするために創られた ファシリティーです。故に、慣れ親しんだ物事との決別でもあります。会議とは守られた個室の中で行われるのが今 までの慣習かもしれません。しかし、議論をし、思考を巡らし、創造するには人に見られているという意識も重要だ と考えます。受験生が自分の勉強部屋ではなくわざわざ図書館へ行って勉強をする。何故か?その方が逆に集中できる からです。自分をプレゼンテーションするということは集中することです。環境を利用して集中していると言える でしょう。しかし、人間、切羽詰って何が何でもやり遂げるしかしょうがないというときには環境に左右されることなく 、ものすごい思考の潜航を図ります。締切前の徹夜とかです。しかし、そのような状況は毎日訪れるものではありません。 ですから、普段の生活の中では、環境というものはとても大切です。言わば、ある程度のストレスをあえて作り出す ということですが、そのような状況がいきなり訪れると、人は戸惑い、今までの環境の方が良かったと感じる かもしれません。しかし、ものづくりとは変化です。今までになかったものを創りだすのですから。 ものづくりセンターでは人々も融合します。先述の図書館ではありませんがいろいろな人々が同じ大きな空間の中で 過ごし、考えます。そのとき、守っていたものもいったんは手放し、同じ空間の中で共有することになるかもしれません。 当然、そこに摩擦やストレスが発生しますが、それは刺激なのですから、新しいアイデアを作り出すにはとても大切な ことです。そもそも、ブレインストーミングという言葉を直訳してみてください。脳の嵐ですから、これは穏やかな平凡な 日々の中にはやってきません。脳内を掻き乱すぐらいのストレスと刺激がない限り、本来この施設が作られた目的を達成 することはできません。ただ居心地が良く快適平穏で、ストレスがない施設には設計されていません。刺激と融合があり、 ストレスもある。しかし同時に緊張から弛緩できる場所もある。そういう施設に設計されています。場所々々にシーンが あります。しかし、それらは作られたシーンではなく、結果として表出した変化です。毎日新しい発見とワクワク感がない といけません。時にそれは感情的な高ぶりとなるかもしれませんが、生活の中である程度の波長の様な感性の満ち引きが ないと想像力は維持されません。次のビジョンを持つということがとても大切です。ルーティーンではものづくりは できません。 オーダーは必要です。変化が重要とはいっても、どこに行くか果てのわからない底なし沼の様な変化は人に恐怖を与えます。 目新しい景色や地形を求めて人々は旅をしますが、これも同じ日本の中、あるいは地球の上という絶対的な秩序のもとでの 名勝であるからその変わった見たことのない景観を楽しむことができるのです。これが、誰も知らない洞窟の中や宇宙の 果てとなると、命をかけての探検となり、恐怖がつきまといます。これでは新しいものの創造などと言っているどころで はありません。日々を包み込む秩序を認識した上での変化であるから程よい刺激となるのです。活性要素です。ですから、 オーダーは必要です。変化と言ってもカオスのような無秩序な状態が良いことは決してありません。日常の中での変化が あって初めて、職場は活性化し、結果としてロングスパンでのものづくりが継続します。人事異動もある程度必要ですし、 席替えだって必要です。でも、会社というオーダーはしっかりしていないといけません。空間にも同じことが言えます。 ものづくりセンターが活性化するには秩序の下で変化が継続することが重要です。 第一のオーダー(構築のシステム) 必要に応じて空間が自己増殖していく。そんな状態をイメージしました。創造的な活動を行う環境には自由に変化する 余地の様なものが要求されます。普通に考えるとどこまでも続く広く均質なユニバーサルな空間が理想的かと思われます。 当初はそのような空間を実現すべくシステムをどうするか考えていましたが、何にでも対応できるファシリティーとは 最終的には見本市会場の様な空間になっていくことに気づきます。しかしながら、この大空間を維持していくには実に コストとエネルギーがかかり、そしてそこに目的施設を配置するにはもう一段の手間とエネルギーがかかります。 自由にエリア設定ができ、必要に応じて増殖もできる、雲の様な構造体を作ることを考えました。空間が拡がっていっても 更なる耐震要素も換気システムも採光システムも必要ない。システム自身ですべてが成立する構造システム。これを作る ことを目指しました。自らの巨体に耐えることが難しい恐竜ではなく、細胞の集まりのように、如何なる器官にでも変化 していけるマクロではなくミクロのシステムを構築することとしました。六角形のタワーとそこに張り巡らせた梁による 構造を考えます。2軸から3軸に平面的なベクトルを増やし、構成しうる空間の形状を飛躍的に増大させます。 一般的に建築を作るには垂直力を負担する柱と地震力に対抗する壁が必要になります。壁を無くすためには柱と梁の接合部が 動かないように剛な接合とすれば良いのですが、このとき、柱も水平地震力に抵抗することとなり径が太くなります。 ものづくりセンターの六角形のタワーは6本の細い柱が組まれた一つの完結した柱となるよう設計されています。 それぞれのタワーごとに地震に抵抗し、壁など耐震要素を他に配置することなく水平方向へ無限に拡がる空間構成を 可能とします。タワー内部には六角形のヴォイドが残りますが、ここは機能的に活用することを意図しています。 タワーを四角形でなく六角形とすることにより、XYの2軸からαβγの3軸に水平力を均等に分散することが可能となり それぞれの部材は効率よく配置されることとなります。水平面のベクトルを2軸に分解するか3軸に分解するかを考えて 頂くと良いかと思います。一番強い平面系は無限大に多角化した円です。無限に拡がり、あらゆる機能に対応しうる構築の オーダーを模索しました。 ・六角形のタワーを1辺18mの正三角形の各頂点に配置することを繰り返し空間は増殖します。タワー間には三角形に 閉じた梁が架かり、緊密に接続されたネットワークが構成され、強度と粘りを合わせもった均質で透明な空間が形成 されていきます。 ・18mスパンは一般的な大規模オフィスの奥行と工場のラインの巾を検証し決定しました。およそ15m。この数字は 今までの組織運営や構造スパンの合理性からもたらされた数字であると推察します。18mの正三角形の一頂点と底辺の 距離はほぼ15.5mです。基本となる長方形平面にも対応し、空間はどこまでも連続します。 ・タワーの標準的な高さは7.2m。吹抜けとすれば工場として、あるいはプレゼンテーションホールやイベントスペース、 大会議室、展示空間として使えます。また、床をかければ、天井高3mを超す空間を2層に亘り構成することも可能です。 タワー自身の強度がオーバースペックとならない様、2階を設ける場合はタワーの際に2階床荷重を負担する添え柱を 付加しています。 ・タワーは単なる構造体でなく、空間を生かす機能軸としても作用します。動線の中継点としてタワー内部のヴォイドを 考えています。上下を移動する階段であったり、空間に入る前室であったり、スロープや渡り廊下の踊り場であったり、 空間と空間をつなぐ結節点と考えています。如何なるゾーニングにも対応します。 ・タワーは設備的な機能を分担する部分でもあります。空間が連続していったときにも外光と外気に満たされたタワーから 採光をもたらすことも換気を得ることも可能となります。どこまでも広がる深度の深い空間をエネルギーの消費を 抑えながら実現することが可能となります。建物の奥深い部分でも自然排煙が可能となります。 第二のオーダー(社会ひいては地球環境に貢献するシステム) LCE(ライフサイクルエネルギー)を考慮しものづくりセンターは設計されています。社会ひいては地球環境を考え、 省エネルギーと創エネルギーを実行します。ランニングだけでなくイニシャルにもかかるトータルなエネルギーの削減と 自然エネルギーの活用を目指しています。 タワーの煙突効果 タワーは構造的な要であると同時にものづくりセンターの設備的環境を整えるメインフレームでもあります。タワーの 煙突効果を利用しての建物内部からの排熱を当初強く意識しました。効果を高めるためにはタワーを高くする必要が ありますがイニシャルにかかるエネルギーを鑑み、構造的に必要な高さの中での排熱システムを考えました。内部に 位置するタワーには全て緑化が施され、タワーの足元にはクーリングされた環境が保たれるよう設定されています。 ここから夏季には涼しい空気が室内に流れ込み、逆に温まった空気がタワーから上空に押し上げられる熱の循環 システムを考えています。 天井裏のセミアクティブソーラーシステム 屋根には軽量の断熱材パネルを採用し、天井面にもグラスウール(断熱材)を敷き詰める構造としています。屋根 パネルを透過した太陽エネルギーは天井の断熱材との間の空気層を温めますが、夏にはこれを排熱するベンチレーター を各タワーで囲まれた正三角形屋根の重心に設けています。逆に冬季にはベンチレーターを電動ダンパーで閉じ、 エコシルフィーというファンにより天井裏の温まった空気を室内に還元する構造としています。パッシブソーラーの 発展形ですが、冬季の暖房には一部だけ機械的な動力を利用しています。太陽電池パネルも設置していますので、 このファンを動かす電力も施設内でまかなわれる仕組みとなっています。冬場の日射があるときにファンは運転される のでこのときは必ず太陽電池パネルも発電をしています。それからベンチレーターには防水ガラリを設け、暴風雨の 時の雨水の侵入を防ぐ仕組みとなっています。ベンチレーター自身六角形の平面をしていますが、夏季の風下側の 2面にガラリを設定し、誘因効果も期待し、天井裏の排熱を行います。(東海市の夏季風向きの統計値は南南西ですが、 7月のみ北西の風となっています。) グラスウールを敷き詰めたシステム天井 天井はパネル状のグラスウールをグラスクロスで包んだパネルを天井面にはりめぐらされた六角形平面の照明(取付) ラインの間に敷きこまれる構造となっています。照明ラインはトラス上の屋根梁底にダイレクトに固定され、 天井の下地材などの二次部材を排除した設計としています。各タワーより正三角形の重心に向け突き上げられた構造 トラス下弦の勾配がそのまま天井の勾配となり室内に現れ、その頂点にファンの吹き出し口が露出します。印象的な シーンが構成されますが、意匠を狙ったものでなく、システムの結果として出来上がったものです。 二次部材の削減 工法的な工夫についても触れておきます。建築を作る上で余分となる二次部材を排除することを心がけました。 前述の天井もしかり、屋根パネルもトラス上弦材の上にダイレクトに固定され、勾配を形成しています。 ガラススクリーンも構造部材にダイレクトに押縁を固定し、サッシレスの構造としています。可動窓のみ規格品の アルミサッシを活用しています。実は建築には形や空間を制御するために多くの二次部材が使われていますが、 ものづくりセンターではそれらを可能な限り排除し、オーダーがそのまま形となって現れる構造としています。 構造は構造、設備は設備、意匠は意匠と別々に考えるのではなく、それらを融合しモノコックな構成を考えています。 これにより、建設やメンテナンスにかかる余分な部材やエネルギー、時間を節約しています。 プレファブリケーション 構造システムについても可能な限り工場あるいはサイト(現場)でのプレファブ化を検討しました。各タワーは搬入の 関係から2分割にて工場製作され、サイトに設定された組立場にて一体化します。これをクレーンで吊り上げ所定の 位置にセットしました。サイトプレファブ用の地組櫓を幾つも敷地内に設け、ここで精度を誤差2mm以下に抑えて タワーを組み上げました。一辺18mの正三角形上の小屋組みも地組にて精度を確保し一体化した後、タワー間に 架けられました。足場を設けての高所作業を極力減らし、制度の確保と、エネルギー、工数の削減を図っています。 宙に浮くプランターと雨水再利用灌水システム 宙に浮いたプランターはタワーの内気と外気を高さ方向に仕切る弁となります。外気をどの高さまで導入するか、 タワーを動線として活用するかなどによってプランターのレベルがセットされます。プランターに屋根からの雨水は 集まり、土壌と植栽の蓄熱効果と相まって周辺をクーリングします。集められた雨水は各プランターに設置された ドレインとアロンパイプを経由し地下に設けられた雨水貯留漕へと向かいます。渇水時には雨水を再利用し、 プランター上部に設けられた散水ヘッドより植栽に水が与えられますが、この水は再度土壌により濾過され、 貯留漕に戻ります。人工の雨水循環システムがここに出来上がります。雨水の排水経路には気をつかいました。 計算値より大きめのドレインを各プランターに設置し、土壌の中の排水層から水が流れ込むよう設定しました。 もしも浸透が追いつかなくなったとき、あるいはドレインが詰まった時を考え、オーバーフロー管も各プランターに 設置しています。オーバーフローにもし水が溢れた場合も落下地点でさらに水を集めるというフェールセーフの 考え方を導入しています。しかし、結果として、早くも9月20日、台風15号によるゲリラ的な降雨により オーバーフロー管から水が溢れました。これを踏まえ、プランターに集まった雨水がドレインに直結するルートを アロンパイプにて新設することとしました。時間雨量100mm以上、10分間に30mmという降雨量も想定 しないといけないほど温暖化は進んでいます。タワーにはその面積の30倍ほどのエリアから雨水が集まります。 30mmの降雨量はタワーに集まるとほぼ1mの水深になります。 蓄熱壁と気化熱 溜められた雨水はものづくりセンターの南北外壁に設けられた蓄熱壁にも散水され、気化熱を利用した自然の クーリングシステムとして利用されます。石を積み上げた蓄熱壁を透過した風は工場部分を冷却し、夏季にも エアコンなしで過ごせる環境を作ります。蓄熱量の高い石を積み上げているのですから、晩に冷却された石は 気化熱を利用しなくても輻射により周辺の空気を冷やします。この壁の間を風が流れ、機械的な空調がない工場 の部分を冷却することを考えました。石壁前面の窓は全て引違サッシとしていますので、窓を開けると冷気が 工場内に流れ込みます。工場内で温まった空気は天井裏へと昇り、ベンチレーターから屋外に排出されます。 輻射冷暖房 ものづくりセンター中央には展示やレクチャーのための空間が連続し、空間の高さが7mを超えます。気積全体を 空調対象とすることは無駄が多く、人が居る床に近い部分だけを如何に快適な環境にするかを考えました。 床輻射冷暖房というシステムを新たに開発し、少ないエネルギーでダイレクトに人にエネルギーを伝えます。 正三角形のPC板(プレキャストコンクリート)による二重床を採用し、その下部に空調器からの空気を放出します。 PC板に蓄積されたエネルギー(温冷)が身体に輻射熱として穏やかに届きます。また、各PC板の頂点に配置された アロン目皿からも空気が流れ出し、優しい空調環境を作ります。輻射冷暖房は2階のオフィス部分にも採用 されますが、震災の影響により、部品の納品が一部遅れています。年末まで仮の空調器を一部使用しています。 太陽エネルギーとの関係 夏の太陽エネルギーを室内環境から排除すること、冬は太陽エネルギーを活用し室内にとどめること。断熱を良く すること。これが省エネルギーの原則ですが、ものづくりセンターではもう一歩進めてパッシブから セミアクティブにシステムを構築しました。もちろんもっと基本的なところでは庇や複層ガラス、 Low-Eガラスの採用を進めています。中間季には機械に頼ることなく窓を開け、快適に過ごせる様、 外付けブラインドも採用しました。 風の道 テラスやコートや開放部の配置を検証し風の通り道にも考慮しました。窓を開放すると爽やかな風がものづくり センターを縦断します。 グリーンコート グリーンコートと名付けたジャングル風の中庭も設け、クーリングを行います。盛夏でも午前中は グリーンコートやタワーの地表面に冷気が漂います。窓を開けこれを内部空間に取り込みます。 照明計画 LED照明も活用し、省エネ性能はもとより寿命の長さとフリーメンテナンスの強みを生かした照明計画を実施します。 吹抜け上部でも高さを気にせずこまめな照明配置を実現し新しい照明のシーンを作ります。高天井の六角形の照明 ラインに設置されたLEDは宇宙を意識する幻想的な情景を醸し出します。オフィス部も高効率型蛍光灯Hfを 採用し照度の確保と省エネを両立しています。 人にやさしいデザイン バリアフリーとユニバーサルデザインという概念を意識し誰もが快適に利用できる社会に開かれた施設としました。 カラーユニバーサルデザインの概念も採用し、人に社会にやさしいファシリティーとしています。 バリアフリーとユニバーサルデザイン 敷地は北から南に向け1.5mを超える上り勾配となっていますが、2万㎡を超える広がりの中、実際には高低差を 視認することができません。大地とバリアフリーなくアクセスする建築を目指していますので必然的に建物内部で 60cm程の高低差に対処することとなります。展示スペースや会議エリアの通路部で勾配床をさりげなく設け、 空間に動きを与えます。また、グリーンコート内に三角螺旋状のスロープを設け一階から2階、屋上へと動線を つなぎます。自ら車椅子で上ることができる勾配1/20にて各階をつなぎます。螺旋状にスパイラルアップする スロープを巡り屋上までアクセスすると、ものづくりセンターの全容をほぼ視認することができます。見えるという ことが機能を伝える最高のユニバーサルデザインであると考えます。もちろん企業の機密を守ることを前提とし、 どこまで見せる即ちプレゼンテーションするかということも考えました。透明ガラスと半透明ガラスの使い分けも この点を考慮し行われています。 第三のオーダー(感性に語りかける創造の場) 建築のプラニング、意匠的なオーダーの決定について記述します。 要求された機能容量を積算するとおよそ7000㎡に達します。気積が要求される空間かどうか、オープンな空間か クローズドな空間か。必要な空間を分類し、先述の構造システムのもと配置したところ、およそ80m四方の平面形が 必要なことがわかりました。ゾーニングにて機能をオーダー中に配置し、その結果として80m四方の空間を 使い切ったということになります。北側を来客エントランスとし、中央部に展示やレクチャー、会議を行う吹抜け空間 とグリーンコートなど開かれた機能を集約し、これをコの字で取り囲む形で、研究開発とオフィスのエリアを配置 しました。吹き抜けたパブリックな空間は透明化し、外部との連続性のもと、建築の内部というより、むしろ ランドスケープとして認識されデザインされます。吹抜けの中に展示用の体験ハウスや流水実験コート、あるいは ブレインストーミングを促すミーティングルームがハウスインハウスの形でセットされます。視線が透過するそれぞれ のミーティングルーム間では互いの行為を意識した中、より活発なブレインストームが行われます。通路は渓谷と天井は 空となり空間的な広がりを体感します。宙に浮いたプランター、タワーに切り取られた六角形の青空、高低差がある 床面も地形の一部と化し内部と外部の重層感に人々の感性は刺激されます。ここでは空調機械もむき出しですが、 機能がそのまま表れてくることをオーダーと考えています。現れる機能や点景に左右されることのない確実で強い 空間秩序です。多様な建築であり、異なる用途に対してデザインを進めることになりますが、建物の基本となる オーダーがしっかりしているため、意外とディテールの決定に迷いがありません。オーダーに従いおのずと結果が 提示されます。 結果として、ものづくりセンターにはいくつものシーンやシークエンスが構築されることになりますが、最初から そのシーンを狙った訳ではなく、オーダーに包まれた機能の集積として形成されたものです。発見。これが今回の デザインコンセプトです。オーダーを発見すること自体がデザインです。最終的に合理的で美しい形を持った物質が 出現するよう細心の注意を払います。機能的で無駄がないものは美しい。 ものづくりセンターは何よりもものを創造する場です。余分な空間的雑音がなく、それでいて地形のように人々に 感動と刺激を与えるシーンの連続の場であります。環境が建物でなく地形となったときその中で過ごす人々は発想力を 開放させ、考え、実験し、議論を活発に交えることとなるでしょう。建物というフレームはそれ自体が組織の囲いとなり 限界を定めます。自由な発想を制約することとなるかもしれません。そうではなく、限界がない平原。自分の居場所、 立ち位置を自由に選択できるランドスケープのようなオーダーのもと人々は活性化します。 家族を案内しやすく、誇れる居場所であって欲しいと願います。